社員からおもしろいアイディアが出てこない、前例のあることしかしない、新たな事になかなかチャレンジしない 等、組織を活性化したい、もしくは変えていきたいがなかなか前に進まないと感じている中小企業の経営者の皆さんへ少しでもお役に立てればと思います。
それほど考えなくても結果はでているし・・・
売上や利益を始めとする目標の設定と達成計画の作成、運用、検証、改善のサイクルのマネジメントシステムを整備し、教育訓練プログラムや人事考課システム、事業部門ごとの収支管理の導入、ITツールの導入 等の組織化を進めて、様々なシステムや仕組みを使用している企業も多いと思います。
経営層が主導して、上記のような何かしらシステム、ツールや制度を導入していても有効的に活用されていない。またはマニュアルや手順者を作成して手順やルールが変わっても、改定が殆ど行われていない。改定されていたとしても担当者や承認者の変更程度で、中身が殆ど変わっていない文書類を保持している企業が、ISOの審査をしていても結構あります。
原因の一つは、売上や利益等についての目標を達成することと組織の制度や仕組みが本当に連動していないからだと思っています。これまで作成したマニュアルや手順書が無くても、別に問題ないというか、支障なく業務が続けられているとみえます。 その点について今までお伺いしました100社余りの企業のトップに問いかけをしても殆ど関心を示すことはありませんでした。
経営者は、実績が前年を上回れば経営ができると思いがちです。そこには計画、実践、振り返り、次の手を打つというサイクルありません。結果だけで評価することが当たり前になって、仕組みや制度の改善まで殆ど考えがいっていないのではないでしょうか?このことは、結果を出している場合は悪い面が顕在化しませんが、なかなか結果が出ない状況に陥った場合、いままで手を付けていなかった事を放置していたことで、リカバリーができなくなります。悪化してから考えても早々に挽回できるアイデアは考え付くものではありません。当然手遅れになる確立が高くなります。これは組織でも個人にも言えることです。
トップがホンネをさらけ出せるか
今の会社の仕組みや価値観は、そうなっていませんか?中小企業のほとんどは、トップが方向性や施策を決めて展開してます。今回のコロナ禍のようなピンチに、思っている考えを述べてくれ、アイデアを提案することと指示しても、トップからの指示通りに動くことに慣れた社員からすぐに何かしたの提案が出てくるでしょうか。正直、厳しいと思います。
ある中堅の外食企業ではこのようなことがありました。トップが上記のような上意下達の企業文化を変えたいと思い、会議で幹部に業績を含めたデータをもとに大変な危機である状況を説明し、これから生き残りのための戦略を提案するように指示しました。その後も会議を開き幹部からいくつか出してもらいますが、従来からの取り組みの域を出ない内容ばかりで行き詰まります。その時にある幹部から、社長からどんな事をしたらいいのか具体的に示してほしい。このままだと何をしていいのかわからないというホンネの意見が飛び出しました。(会議終了後、その幹部は社長に謝ったそうです。今まで、そのような事をした事がなく、かなり勇気がいったと思います)、でもその発言をきっかけにして、社長がその幹部の意見を受け入れ、自分の想いを率直に語りました。その後、様々な有効性が高い提案が出され、検討を重ねた結果、社長がやりたいものと別の中身の提案が採用されました。この取り組みは、徐々に業績に貢献することにつながった事例として先日テレビで放映されていました。
「将来を見通してなぜこのような事に取り組むのか(目的)」、「出したい結果(目標)は何か」、そして「一緒にやっていこう。協力して欲しい」とトップが話す事で、社員が安心して、自分の考えや想いを出していけます。それが、組織内の思考停止を打破する始めの一歩です。
社員を思考停止させているのはトップの言動、考え方にある
以前支援させていただいた製造業の会社でこんなケースがありました。顧客との間で出荷の際に品質証明の書類を出荷前に提出し、その後に出荷するというルールになっていましたが、提出しないまま出荷したことが、ある時期に集中してしまい、大きなクレームとなってしまいました。
何でこんなことになったのかということですが、 当事者や関係者からその当時の状況について聞き取りを行い、その背景を探ったところ次の事がわかってきました。
まず、納期を守ることを最優先にした事、出荷の際の品質証明書のチェックが誰が行うのかも決まっていなかった事 等、様々なことが重なり起こるべくして起こってしまいました。
もう少し聞いてみると、現場の一部の人たちは今までのやり方では、このようなミスが起こるのではないかと話していたとのことです。ただ、これまで現場から指摘や提案があっても、対応するといって放置される事が殆どだったという事でした。このように現場からの意見に対応しなかったことや、悪い情報を報告してもどのような対処をしたのかも周知されない、上に報告していない 等がわかってきました。そういった様々な事が重なり、何を言っても変わらない、ムダだと思い余計なことは言わない、前例通りのことをやっていればいいといった人達を増やしてしまいました。そうなると、現場の雰囲気も悪くなってしまい、ひどい時は、担当者がお伺いする度に変わっていました。
トップが気付けば思考と行動は変わっていく
トップはこの状況の報告を受け、さすがにこのような事が続けば会社の継続も危ないと気付いたことが転換点となりました。注意して取り組んだことは、「責任は問わないので何でも話してほしい」というスタンスを示し続けて話し合いを続けたことでした。また、現場のリーダーには前向きな言葉を意識して発してもらう事を地道に続けるようにお願いしました。
ただ、当初はそのように話しをしても、なかなか口を開いてもらえませんでした。当たり前です。口先だけでは信じてもらえません。それでもトップは粘り強く、従業員との話しあいをし続けました。
その際に取ったアプローチは、責任を問わない事を前提に、「その発生した状況の確認」、「作業ルール/仕組み」、「作業者の教育訓練の内容」、「意思疎通の方法」、「情報共有の方法」、「使っている設備・装置の使用状況」、「誰が確認するのか/承認するのか/責任をもっているか」、「重要管理指標は何か」、「この作業でのリスクとその対応は」 等の多面的な調査・分析を部門や階層を超えた数人のチームで行う体制を整え、 そこから出てきた提案を積極的に採用しました。その後、現場の方々からの問題点とその解決に向けたいくつかの提案が自発的に出るようになりました。今でもその動きは続いており、生産性の向上にも貢献するケースも徐々に出るようになりました。
トップが、結果を出すために自らの思考と行動を変えたことが組織全体の思考と行動様式も変えた、組織開発のケースです。“急がばまわれ”ではありませんが、まずは組織に安心と信頼を醸成させることが、社員と組織が成長する近道です。