ISO45001が発効されて5年ほど経ちました。これまでの「人的資源」としての人材のとらえ方を「人的資本」として、企業価値向上のための人材への投資は必要なエンジンとしてアップデートした取組みの必要性が叫ばれ、上場企業においては、2023年3月期から人的資本について有価証券報告書で開示が義務化されました。
このISO45001は「人的資本」に関する取り組みと非常に親和性も高く、持続可能な組織を目指すために有用なものです。弊社では、ISO45001の認証取得のコンサルティングの初回の時に、このISO45001の活動を通して、企業の価値を上げて持続可能な組織となるために、必要な事をお伝えしています。今回は、その辺についてお伝えしたいことを書いてみます。
ISO45001 労働安全衛生マネジメントシステムの目的とは
ISO45001:2018の序文0.1の背景では、「労働安全衛生マネジメントシステム導入の目的は、組織が安全で健康的な職場を提供できるようにし、労働に関係する負傷及び疾病を防止し、労働安全衛生パフォーマンスを継続的に改善できるようにすること。」と示し、序文0.2労働安全衛生マネジメントシステムの狙いでは、上記の意図した成果の実現のため、効果的な予防策や保護策を実施して職場における危険な要因、人々にとっての有害な要因を除去することの重要性を述べています。
このように、人々が働いている環境をより働きやすくすることで人々が持てる能力を発揮して、パフォーマンス(測定可能な結果:組織や自分自身が求めていること、期待していること)を上げることを実現し、従業員満足の向上を目的としています。
ISO45001の成功のための要因とは
ISO45001:2018の序文0.2に成功のための要因について示しています。リーダーシップ、コミットメント、すべての階層の参画が成功の要素として書かれています。
特にトップマネジメントについて、リーダーシップやコミットメントをのみならず、責任及び説明責任が要因として書かれており、コミュニケーションやあらゆる階層の参画による協議も示されています。
もう一つ着目したいのは「安全で健康的な職場を提供できること、労働に関係する負傷及び疾病を防止する」ことを実現するための組織文化を積極的に主導し、推進することを書いています。トップマネジメントが積極的に組織の安全衛生文化を作り、浸透させることの必要性をうたっていることです。
これは、組織の文化(価値観、ものの観方)が旧態依然としたものでなく、社員が能力を発揮し、成果を出すために組織全体として支援する文化を作って実践できるかどうかが成功の鍵であるとしています。
弊社は、トップマネジメントの積極的な関与とリーダーシップが必要不可欠であることも伝えています。これは、社員からのボトムアップだけでは、不十分であり、その実現にはトップの支援なくしてはあり得ないことを併せて伝えることでトップマネジメントの意識を高める取組みを行っています。
安全で健康的な職場を実現するとは
従業員の満足向上が目的とお伝えしました。従業員の満足度については、従業員一人一人でその考え方や基準は異なります。ただ、従業員が何を考え、望んでいることを把握することは必要であり、その取り組みから始めています。そこで基準となるものは、組織の理念やビジョンに共鳴し、熱意をもって、生き生きと仕事をする、エンゲージしているかを調べてみることです。
ギャラップ社の2022年のエンゲージメント調査では、日本の職場では、エンゲージしている 従業員は5%とOECD加盟国平均の20%を15ポイント下回っており、世界中でも最低ランクになっています。
支援先には始めの段階で、このエンゲージメントサーベイを実施しています。これを頻度を決めて実施し、その推移を見るようにしています。上記のエンゲージメントサーベイでなくとも、ストレスチェックの属性データからの傾向をみることも可能です。支援先が、この日本の傾向に対して同様な状況に陥っているのか、そうでもないのかを確認することから始めています。
ただ、ISO45001の認証取得が目的というのではなく、この取組みを通して、持続可能な組織となるために必要なことは何か、目指す組織像とは何かをまず明確にする必要性をお伝えしています。
このISO45001は、組織を変える可能性を秘めています。目指す姿を明確にし、他のマネジメントシステムと同様にPDCAサイクルをもとに、方針、目標の設定、達成計画の策定をし、実践、振り返り、さらなる改善への取組みを継続していくことで、組織そのものを変えることが十分に可能となります。
ぜひ、このISO45001について一度調べていただき、組織を変えたいと願っている経営者の方に認証取得についてご検討をしていただければと思います。次回は、具体的に何をしていくのかをお伝えします。