以前ISOのマネジメントシステムの認証取得から取得後の運用の支援で、毎年同じような目標を設定したり、数値化にこだわってしまい、クレーム0、労災0といったスローガン的なものを設定し、とてもPDCAサイクルが廻っていると言えない組織が多くありました。
品質目標の設定に苦慮している、設定しても本当に役に立っているのかといった組織の経営者、管理層の皆さんにどうすれば腹落ちするものが出来るのか、実際に支援した事例をもとにお伝えします。是非、参考にしてください。
経営者の危機感を、組織の実態を、課題やリスクとして特定する
ISOのマネジメントシステムの規格要求事項の「4.組織の状況」に組織の内部・外部の課題、利害関係者の要求を明確にすることと、「6.1リスク及び機会への取組み」では、リスクと機会を特定し、取り組む事が求められています。
じつは、これには、「組織の目的やこのマネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える」といった文言が前段にあります。
そうなんです。殆どの組織では当たり障りが無い、例えば「人手不足」や「社員の高齢化」、「少子高齢化で市場が縮小になる」等、大切な事ではありますが、ありきたりな文言が並んでいるだけで、この問題を本気でどうしようという意思は感じられません。
そしてほとんどの組織では、階層間や世代間、部門内の関係性が良くない事で社員が辞めていく実態を書いていません。大半は「人手不足」や「若手社員が定着しない」等です。
もっと掘り起こして真の課題を明確にするのは、経営者しかいません。支援をしている物流業の中小企業では、経営者がこのままではまずいという危機感をそのまま「組織の状況」の内部の課題として書きました。
これまではクレームの件数や売上、そしてそれらの取り組みを書いていましたが、経営者の力量に依存するところがあり、PDCAサイクルが廻せず、その後の改善になかなかつながらない状況でした。
経営者自身も組織にとってこのような目標や実施計画は、殆ど役に立っていないと感じており、審査対策のようになっていました。
この状況を変えるべく経営者と話し合いを重ねて浮き彫りになったのは、一部のベテラン社員と若年層の社員との関係性が悪く、折角若い世代の人が入社しても、ベテランの怠慢な(模範を示すとは程遠い)働きぶりを見て、辞めてしまうという悪循環に陥っていることから、このままでは事業の継続に影響を及ぼすという強烈な危機感でした。
それを最優先の課題に取り上げるべきと弊社で進言し、取り上げることになりました。(この課題やリスクはこのままの文言で社内に共有すると問題になるので、一般社員には開示はしていません)
危機感を社内に伝わりやすく言語化しよう
このように課題やリスクをまとめた後は、課題の解決を目指し、又はリスクへの対応を通して「どんな組織にしたいのか」を言語化する事でした。
目的の言語化は、最優先の問題に対して、1~2年先を念頭に、実現可能でシンプルでわかりやすく関係者にとって魅力的なものであることです。これは、抽象的な表現で良いと思います。
例えば、若手が活躍する機会を作って実績の好影響を与える循環を目指したいのであれば、‶全ての人々の能力を発揮する多くの機会をつくり、活躍する人材を増やす”とします。
このように「目的」が何をするのか、その実現の方向がはっきりしてきます。それをもとに、達成計画では、今年1年で何をするのかを具体的なフェーズ(段階)を示します。
例えば入社してからどんなスキルや能力をみにつけるのかを洗い出してまとめる事や今の現状を全体ミーティングで共有し、社員の意見を聞く場を作る、一人一人と面談して今後の事を話し合う場を作る 等、様々な取り組みを書き出す事が可能になります。
前述の企業では、言語化した目的をもとに、フェーズの1つとして取り上げた、全社ミーティングを定着するための「具体的な実施策」を洗い出し、実現できる内容にまとめました。
実は、以前から全社内の情報共有のためにミーティングの実施の必要性を伝え、支援をしていたのですが、なかなか定着しませんでした。ただ今回は、経営者がやると自ら宣言し、開催日を決めて実施しました。やっとスタートラインに立つことが出来ました。
目的と目標は、経営者がこれはやらないといけないという事に取り組むものでないと魂は入りません。そして、それをどう実現するかというプランをアウトプットして、行動していくものだと改めて実感しました。