ISOのマネジメントシステムを取得する企業の経営者と認証取得後に社内のコミュニケーションが潤滑でないために、日常業務に支障を来たす懸念がある、なかなかの想いが伝わらない等といったことでお悩みの中小企業の経営者の皆さんにお伝えします。
ISOのマネジメントシステムの要求事項の7.4項「コミュニケーション」には、組織にとって必要なコミュニケーションの手段と方法を明確にするよう要求しています。
ISOのマネジメントシステムと運用するということは、今まで暗黙となっていることをはっきりと責任と権限や役割を含めて文書化して、仕事の進め方ルールを作って、コミュニケーションをとって運用していくことです。
コミュニケーションに必要なのは、双方向であること。そして、お互いの事を理解することと必要な情報を共有することで組織の目標の達成、成果に向けて一致して取り組むことです。
目次
仕組みや制度だけ作っても意味がない。
「仏つくって魂入らず」といいいますが、枠組みを作っても運用するのは、人です。それが、通り一遍の説明で、「後はやって下さい」とその後任せっぱなしにしてしまうと、折角作った文書は、使われない事は自明の理です。
本来、作ったマニュアル・手順書の文書は、そのルールを守ることで、不良品の発生を防ぐことや、サービスの向上のために使われないいけません。
コンサルティングや審査でお伺いする企業の大半は、「会議体や朝礼や夕礼で話しをしており、支障なく業務が進められているので大丈夫だと。」と話しています。
ただ、実際に現場で話しを聞くと、最低限の質疑応答と一方的な指示が大半を占めているところもそれなりにあります。
そうなると、社員は目に前にある仕事をこなすというだけで、担当以外の作業に関心もなく取り組む懸念がでてきます。
そのことが次第に顕在化すると、当たり前のことですが、不良品やサービスの低下が起きてきます。
コミュニケーションをしっかりとっていないと・・・
でも、皆さんは今までそのようなことは起きていないから大丈夫だと思っていませんか?
なぜ、あまり表沙汰になっていないのか、いくつか実際にあった事例を示してみます。
1) 今迄現場の作業者が固定化され、これまでの経験から自身の役割を理解して、他の作業を含めてスムーズに進める術を感覚として身につけていたこと。
2) 管理者がしっかりと統制をとって社員をコントロールして取り組んでいたから。
共通しているのは、人に依存している、いわゆる属人的に「阿吽の呼吸」で仕事を進めているところです。
そのような現場では手順書がファイルされ、写真も掲示されているにも拘らず、殆ど使用されていませんし、なかなか不良品が減りません。
作業者は必要な時に自分でメモしたノートを見たり、手書きで書いた紙を掲示しているという現場もありました。
ひどいところは、ラインの全ての責任者に会社の目標を聞いても答えられないところもありました。
ある表面処理業の会社では、作業標準を作成して、順守させることを徹底させました。
また、毎月の会議で不良品発生の検証結果の報告や検討を行うことや、毎日の昼礼でクレームや不良品についての原因と対応をラインごとで話し合う取り組みを継続した結果、不良品の発生がピーク時の1割以下に減少しました。
そこには、お互い理解するまで話し合ったという、徹底したコミュニケーションがありました。
社員一人一人に向き合おう
そう、殆どの企業は、肝心な事をしていないのです。話し合いをして、お互いの考えを理解して何をすべきかを確認して合意するということを避けてきたからです。
配属したら担当領域の仕事を早く覚えて欲しいので入社後はその事だけ説明して従事させたこと、また話しをしても理解してもらえない事が多々出てきている、そして目の前にある仕事に追われて意思疎通がとれないという話しも聞きます。
でも、いつまでも同じ人が未来永劫働き続けることはあり得ませんし、新たに雇用していくことも避けられません。
そうなると、その人に仕事を教えて、早く理解してもらう必要があります。OJTで教育訓練をすることもあります。また、若い年代が増えていけば世代交代が必然です。
経営者だけでなく、中間管理職も若い世代とのコミュニケーション能力を高めていかなければいけません。
人間の行動は感情を伴っている。
物事を指示するときに、「何故この事をしないといけないのか」、「仮にしっかりとやらない場合に組織にどんな悪影響を及ぼしてしまうのか」等、理解してもらうように話しをしていますか?
グループウェアやメールだけで指示や要請をして、実際に何も伝わっていないことや前に進んでいない事がよくあります。
ここで必ず押さえておかなければならないのは、「人間が感情で動く動物である」ということです。
「~をしなさい」というようなことだけでは相手に伝わりません。
特にメールやグループウェアでの指示については、その内容においては些細なことでも相手に話しをして意図を説明することが必要な場合があります。
指示された方も、メールやグループウェアのように活字だけで伝えても殆ど反応しません。
役職や立場の違いはありますが、会ってしっかり話して理解してもらうことを避けずに取り組んで下さい。
何でも口頭で説明しなさいというのではありません。ただ、メールやグループウェアで指示しても前に進まない事例が多く発生しています。
そのようなツールを使って連絡すればそれでいいという誤った認識が弊害を生んでいるのす。
しっかりと話し合うべきことを話し合って下さい。そうして納得してもらえば前に進みます。
人間は、伝えられたことの半分も理解していない
まず、書面を使って丁寧に説明しても、完全に理解していないという前提で、接していくことです。
説明後に理解できたかどうか、理解できていない事があればそれは何なのかを、理解できるまで確認するしかありません。ミスやムダな事を減らすために必要な事です。
それでもミスする人もいるかもしれません。でも、あきらめずに確認することを継続して下さい。
これは、管理職や中堅社員にも必要なコミュニケーションのありかたです。
相手を知ることが、組織を機能させる始まりとなる。
組織を機能させるためには、役職、性別関係なく、相手を知ることから始めなければいけません。
プライベートを全て知れと言っている訳ではありません。
中には、話しても全然理解しない、自分の役割・責任を果たしていない、何を考えているかわからない 等、お嘆きの方もたくさんいると思います。
相手を非難する前に、まず自分がどうなのかという観点で自身をみつめて下さい。
「相手のことをどれだけ知っているでしょうか?」、「なんでそのような意見や考えを述べるのだろうか?」と自分に問いかけて下さい。
育った背景や環境はかなりの影響を及ぼしています。相手を知ることから始めて下さい。
よく企業の中で面談をしている事を聞きます。折角面談するのであれば、好きな事や得意な事を聞きながら、何故その事に興味を持ったのか、どのような変遷を経て今に至ったのかを聞き出して、時には自分のことも語って、理解を深め、距離を縮めることから始めて下さい。
もちろん人それぞれですので、一気に話しをするのではなく、一人一人柔軟に対応を変えて、徐々に進めて下さい。場合によっては、お酒を飲みながらでも構いません。
社員は、「自分の事をちゃんと見てくれているのだろうか」、「自分に関心を持ってくれているだろうか」等の事に敏感に反応します。
様々な話し合いを通じて、社員は自分の事を理解しようとしてくれている、必要とされているということを実感し、相互理解を深めていきながら、社員に能力を発揮できるように支援をして下さい。
そのような地道な積み重ねが組織の能力のアップになり、業績の向上につながります。
「ローマは一日にしてならず」です。